坂口 安吾

醍醐の里

三年ほど前の早春、自分が京都に住むことになつてものの二週間とたたないうちに、突然小田嶽夫君が訪ねてくれた。

小田君は上海旅行の途中で、京都は始めてだと言つてゐたが、自分を訪ねる前に見物してきたばかりの醍醐寺に、よほど感心したらしく、早速ポケットから絵葉書をとりだして説明しはじめたが、僕も京都は当時まつたく不案内で、醍醐といふ地名も醍醐寺といふ存在も、その時はじめて知つたのである。

京都といふところは、二三日の慌ただしい見物でなかつたら、乗物に乗らず、目当のない散歩のつもりで、足の向くままぶらぶら歩くに限るのである。

次から次へ、壮大な伽藍があり、静寂の地がある。そこではじめて寺名を人に尋ねてみると、みんな古来有名な寺だ。かうして漫然と自然親しくなる方がいい。

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