坂口 安吾
イノチガケ
前篇 マルチル・マルチレスの数々
一五四七年一月、一艘のポルトガル商船が九州の一角に坐礁して引卸しにかゝつてゐると、丘の上から騎馬で駈け降りてきた二人の日本人があつて、手拭を打ちふり、その船に乗せてくれないかと叫びたてゝゐる。
四名の水夫がボートを下し岸へ漕ぎ寄せて聞いてみると、事情があつて追跡を受けてゐる者であるが、かうしてゐるうちにも追手の者が来さうであるから、船に乗せて一時の急を救つてもらひたいといふ頼みである。
水夫達は当惑したが、見れば一人はかねて九州ヒヤマレゴ(該当地不詳)の港で面識のある者であるから、とにかくボートに乗せて本船へ漕ぎもどることにした。