坂口 安吾

落語・教祖列伝

彼は子供の時から、ホラブンとよばれていた。ブンの下にはブン吉とかブン五とか、つくのだろうが、今では誰も知っている者がいない。ホラブンは子供の時から大きなことばかり言っていて、本当のことを喋ったことは一度もなかったそうである。

彼の生家は水呑百姓であったが、鶏やケダモノを食うので、村中から嫌われていた。彼の父は怠け者で大酒飲みであったが、冬になると、どこかへ稼ぎに行って、春さきに、まとまった金を持って帰ってきた。村の者は、奴は他国で泥棒してくるのだと蔭口をたたいていたのである。

ホラブンには二人の姉があって、雪のように白く、絵の中からぬけでたように美しい。けれども村の若者は、四ツ足食いの無法者の娘を恐しがって、手をだす者もいない。

長姉は城下へでて家老の妾になり、次姉も江戸へでて、水茶屋だか遊芸小屋だかで名を売ったあげく、さる大家の妾になったという。イヤ嘘だ、イヤ本当らしい、と村でも真偽定かではないが、ホラブンはおかげで子供の時から、敬遠されて、遊んでくれる友だちがない。時々村の子供と大喧嘩して、ナグリコミをかけると、相手は三十人ぐらいかたまって逃げまわり、大人もソッポをむいて知らん顔をしたり、一しょに逃げまわッたりした。

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