泉 鏡花

術三則

帝王世紀にありといふ。日の怪しきを射て世に聞えたる※(「栩のつくり/廾」、第3水準1-90-29)、嘗て呉賀と北に遊べることあり。呉賀雀を指して※(「栩のつくり/廾」、第3水準1-90-29)に對つて射よといふ。※(「栩のつくり/廾」、第3水準1-90-29)悠然として問うていふ、生之乎。殺之乎。賀の曰く、其の左の目を射よ。※(「栩のつくり/廾」、第3水準1-90-29)すなはち弓を引いて射て、誤つて右の目にあつ。首を抑へて愧ぢて終身不忘。術や、其の愧ぢたるに在り。

また陽州の役に、顏息といへる名譽の射手、敵を射て其の眉に中つ。退いて曰く、我無勇。吾れの其の目を志して狙へるものを、と此の事左傳に見ゆとぞ。術や、其の無勇に在り。

飛衞は昔の善く射るものなり。同じ時紀昌といふもの、飛衞に請うて射を學ばんとす。教て曰く、爾先瞬きせざることを學んで然る後に可言射。

紀昌こゝに於て、家に歸りて、其の妻が機織る下に仰けに臥して、眼を※(「目+爭」、第3水準1-88-85)いて蝗の如き梭を承く。二年の後、錐末眥に達すと雖も瞬かざるに至る。往いて以て飛衞に告ぐ、願くは射を學ぶを得ん。

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