坂口 安吾
牛
ふと校庭を眺めると、例の学生がまた走っていた。
「あのバカはつい今しがたぶッ倒れたのを見たはずだが……」
思わずカタズをのんで眺めたと云っては大ゲサかも知れないが、幻を見たかと思ったのである。
つい今しがた――それはたぶん十分もたたないような気がするが、その学生はラストスパートをかけて百五十メートルぐらい全身の力をふりしぼって走った。そのあげくゴールの地点を一足こしたとたんにフラつきだして、地の中へ頭からめりこむように猛烈な勢でぶッ倒れたはずなのである。まさに力つきはてて一滴の余すものなしという感であった。