泉 鏡花・泉 鏡太郎

銭湯

それ熱ければ梅、ぬるければ竹、客を松の湯の揚場に、奧方はお定りの廂髮。大島擬ひのお羽織で、旦那が藻脱の籠の傍に、小兒の衣服の紅い裏を、膝を飜して控へて居る。

髯の旦那は、眉の薄い、頬の脹れた、唇の厚い、目色の嚴い猛者構。出尻で、ぶく/\肥つた四十ばかり。手足をぴち/\と撥ねる、二歳ぐらゐの男の兒を、筋鐵の入つた左の腕に、脇へ挾んで、やんはりと抱いた處は、挺身倒に淵を探つて鰌を生捉つた體と見える。

「おう、おう。」

などと、猫撫聲で、仰向けにした小兒の括頤へ、動りをくれて搖上げながら、湯船の前へ、ト腰を拔いた體に、べつたりと踞んだものなり。

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