久生 十蘭
川波
第二次大戦がはじまった年の七月の午後、大電流部門の発送関係の器材の受渡しをするため、近くドイツに行くことになっていた大電工業の和田宇一郎が、会社の帰りに並木通りの「アラスカ」のバアへ寄ると、そこで思いがけなく豊川治兵衛に行きあった。
「よう、いつ帰ったんだ」
「つい、この十日ほど前に……用務出張でね、またすぐひきかえすんだ」
「おれも急に出かけることになったんだが、戦争ははじまりそうか」
久生 十蘭
第二次大戦がはじまった年の七月の午後、大電流部門の発送関係の器材の受渡しをするため、近くドイツに行くことになっていた大電工業の和田宇一郎が、会社の帰りに並木通りの「アラスカ」のバアへ寄ると、そこで思いがけなく豊川治兵衛に行きあった。
「よう、いつ帰ったんだ」
「つい、この十日ほど前に……用務出張でね、またすぐひきかえすんだ」
「おれも急に出かけることになったんだが、戦争ははじまりそうか」