久生 十蘭

雪間

一

宮ノ下のホテルを出たときは薄月が出ていたが、秋の箱根の天気癖で、五分もたたないうちに霧がかかってきた。笠原の別荘の門を入ると、むこうのケースメントの硝子の面に夜明けのような空明りがうつり、沈んだ陰鬱な調子をつけている。急に冷えてきたとみえて、霧の粒が大きくなり、いつの間にか服がしっとりと湿っている。

うねうねと盛りあがった赤針樅の根這いにつまずきながら玄関のほうに行こうとすると、木繁みの間からほのかに洩れだす外灯の光の下で、笠原の細君の安芸子と滋野光雄が向きあって立っているのが見えた。

二尺ほどの間隔をおいて向きあっているが、それはただそうしているというのではなく、激情をひそめた静の姿勢だと思われる。そういった切迫したようすがある。

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