長塚 節

十日間

三月二日、月曜、晴、暖、

起床平日よりはやし、冷水浴、

宵に春雨が降つたらしく屋根が濕つて居る、しかし雫する程ではない、書院の庭にしきつめてある松葉は松もんもが交つてるので目障りであるがけさは濡れて居るからいかにも心持がよい、庭下駄を穿いてぶら/\とあるく、平氏門に片寄つてさうして戸袋にくつゝいた老梅が一株は蕾がちで二株は十分に開いて居る、蕾には一つづゝ露が溜つてその露が折々松葉の上に落ちる、五片六ひら散つて松葉にひつゝいてるのが面白い、まだ散る頃ではないから大方春雨の板面であらう、空は西の方から拭つたやうに靄が禿げて日の光が竹林の上から斜にさしかゝると、溜つて居る露がかゞやいて落ちるたびにゆら/\と搖れる、子供のするやうに人指し指を曲げてその背へ蕾にかゞやいて居る露をとつて見た、こんな心持のよい朝はない、はやく起きたのが嬉しくつてたまらなかつた、即興の歌が八首、七首は立どころに成つて一首は少し苦んだ、

村の役場へ納めに行く、いま使をやつたのだが逢はなかつたといふのである、この使は納めの催促である、小使の婆さんが安火へ火を入れて呉れた、茶菓子を買ふ、ひつこき、ねぢり棒など、婆さんに少しばかり錢をやる、いらないといふとれといふ、何遍かお辭誼をした、

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