久生 十蘭

顎十郎捕物帳

藤波友衛

坊主畳を敷いた長二十畳で、部屋のまんなかに大きな囲炉裏が切ってある。磨出しの檜の羽目板に、朱房のついた十手や捕繩がズラリとかかって、なかなか物々しい。

数寄屋橋内、南番所御用部屋。まだ朝が早いので、下ッ引の数もほんの三四人、炉端にとぐろを巻いて、無駄ッ話をしているところへ、不機嫌な突袖でズイと入って来た卅二三の男。土間で雪駄をぬぐと、畳ざわりも荒々しく上って来て、焼腹に羽織の裾をまくって、炉端へ坐りこむ。岡ッ引があわてて坐り直してごくろうさまでございます、と挨拶したが、そっくり返って返事もしない。

どこもここも削いだような鋭い顔で、横から覗くと鼻が嘴のように尖って見える。結ぶと隠れてしまうような薄い唇をへの字にまげてムッと坐っている。

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