久生 十蘭
顎十郎捕物帳
花婿
二十四日の亀戸天神様のお祭の夜からふりだした雨が、三十一日になっても降りやまない。
神田佐久間町の焙烙長屋のドンづまり。古井戸と長屋雪隠をまむかいにひかえ、雨水が溝を谷川のような音をたてて流れる。風流といえば風流。
火鉢でもほしいような薄ら寒い七ツさがり。火の気のない六畳で裸の脛をだきながらアコ長ととど助がぼんやり雨脚を眺めているところへ、油障子を引きあけて入って来たのが、北町奉行所のお手付、顎十郎のおかげでいまはいい顔になっている神田の御用聞、ひょろりの松五郎。