久生 十蘭
顎十郎捕物帳
はやり物
谷中、藪下の菊人形。
文化の末ごろからの流行で、坂の両がわから根津神社のあたりまで、四丁ほどのあいだに目白おしに小屋をかけ、枝を撓め花を組みあわせ、熊谷や敦盛、立花屋の弁天小僧、高島屋の男之助。虎に清正、仁田に猪。鶴に亀、牡丹に唐獅子。竜宮の乙姫さま。それから、評判の狂言を三段返し五段返しで見せる。人形の首は人気役者の顔に似せ、衣裳は、赤、白、紫、黄、色とりどりの花を綴って飾りたてる、それが、実に見事。
もとは巣鴨の染井や麻布の狸穴だけのものだったが、そのほうは廃れ、このせつは谷中の名物になり、地元の植木職が腕によりをかけていろいろと趣向を凝らす。菊人形師などというものもあらわれ、小屋の数もふえて六十軒あまり。小屋名の入った幟を立て、木戸には木戸番がすわって、