佐左木 俊郎
狂馬
炭坑の坑は二つに区別されている。竪坑。斜坑。――地上から地下へ垂直に、井戸のように通うているのが竪坑で、斜坑は、地上から地下へ、勾配になって這入って行くのだから樹木に掩われた薄暗い坂路を連想させる。
斜坑は、動物の通路を第一の目的として掘られたものであろう。炭坑に蒸気機関や電動機の採用されていなかったころ、人間の肩や背の他には、馬が一切の労働力を供給していたのだから。炭坑に機械力が這入って来てから、馬は、次第に廃れて行ったのであるが、古くからの炭坑へ行くと、今でも、馬の残っているところがある。
青!(その馬は若い時からそう呼びならされていた。)
青は鉱山主の温情主義から、坑の中に養われていた。十何年間を、地の底の暗闇の中に働いていたのであったが、最早すっかり老衰してしまって、歩くことさえも自由ではなくなっていた。併し、青は、坑内に働いている誰からも愛されていた。惨めな老人を労るようにして労られていた。