ルブラン モーリス
奇巌城
一 夜半の銃声懐中電灯の曲物
レイモンドはふと聞き耳をたてた。再び聞ゆる怪しい物音は、寝静った真夜中の深い闇の静けさを破ってどこからともなく聞えてきた。しかしその物音は近いのか遠いのか分らないほどかすかであって、この広い屋敷の壁の中から響くのか、または真暗な庭の木立の奥から聞えてくるのか、それさえも分らない。
彼女はそっと寝床から起き上って、半分開いてあった窓の戸を押し開いた。蒼白い月の光は、静かな芝草の上や叢の上に流れていた。その叢の蔭の方には、古い僧院の崩れた跡があって、浮彫の円柱や、壊れた門や、壊れた廻り廊下や、破れた窓などが悲惨な姿をまざまざと露わしていた。夜のかすかな風が向うの森の方から静かに吹いてきた。
と、またも怪しい物音……それは下の二階の左手にある客間から響くらしい。