折口 信夫

稲むらの蔭にて

河内瓢箪山へ辻占問ひに往く人は、堤の下や稲むらの蔭に潜んで、道行く人の言ひ棄てる言草に籠る、百千の言霊を読まうとする。人を待ち構へ、遣り過し、或は立ち聴くに恰好な、木立ちや土手の無い平野に散在する稲むらの蔭は、限り無き歴史の視野を、我等の前に開いてくれる。此田畑の畔に立つ稲むらの組み方や大小形状については、地方々々で尠からず相違があるらしいが、此と同時に、此物を呼ぶ名称も亦、至つてまち/\である。

○すゝき……………………大阪四周の農村・河内・大和・山城・紀伊日高

○すゞし……………………因幡気高郡

すゞしぐろ……………同じ地方

青空文庫の作品カード