武田 麟太郎
反逆の呂律
1
囚衣を脱ぐ。しかし、着るものがなかつた。連れて来られた時は木綿縞の袷だつた。八月の炎天の下をそれでは歩けないだらう。考へて襦袢一枚になつた。履きものには三銭の藁草履を買つた。
仙吉はかうして午前五時、S監獄の小門から出た。癪なので振りかへらずに歩いて行つた。畠と畠との間の白い道がステーションまで続いてゐる。彼のうしろで次第に高いコンクリートの塀を持つた監獄が遠くなつた。
汽車に乗るまでには時間があつた。三ヶ月の服役の報酬としての四円十銭のうちから、駅前で大福餅を食つた。昨夜のらしく、餡は饐えてゐた。だが彼は頬を盛に動かし、茶をのんでは、咽喉骨をゴクリゴクリとさせた。