泉 鏡花

黒百合

序

越中の国立山なる、石滝の奥深く、黒百合となんいうものありと、語るもおどろおどろしや。姫百合、白百合こそなつかしけれ、鬼と呼ぶさえ、分けてこの凄じきを、雄々しきは打笑い、さらぬは袖几帳したまうらむ。富山の町の花売は、山賤の類にあらず、あわれに美しき女なり。その名の雪の白きに愛でて[#「愛でて」は底本では「愛でで」]、百合の名の黒きをも、濃い紫と見たまえかし。

明治三十五年寅壬三月

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