高村 光太郎

書について

この頃は書道がひどく流行して来て、世の中に悪筆が横行している。なまじっか習った能筆風な無性格の書や、擬態の書や、逆にわざわざ稚拙をたくんだ、ずるいとぼけた書などが随分目につく。

一

絶えて久しい知人からなつかしい手紙をもらったところが、以前知っていたその人の字とは思えないほど古法帖めいた書体に改まっている、うまいけれどもつまらない手紙の字なのに驚くような事も時々ある。しかしこれはその人としての過程の時期であって、やがてはその習字臭を超脱した自己の字にまで抜け出る事だろうと考えてみずから慰めるのが常である。やはり書は習うに越した事はなく、もともと書というものが人工に起原を発し、伝統の重畳性にその美の大半をかけているものなので、生れたままの自然発生的の書にはどうしても深さが無く、その存在が脆弱で、甚だ味気ないものである。

二

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