吉江 喬松
伊良湖の旅
北から吹く風が冷たく湖上を亙つて来た。浜名湖の波は白く一様に頭を上げて海の方へ逆押しに押し寄せる。
四月の上旬で、空の雲はちぎれ/\に風に吹かれて四方の山へひらみ附いてゐる。明るい光が空を滑つて湖上に落ち、村櫛、白州、大崎の鼻が低く黒く真向ふに見えてゐる。
新居への渡船を待つて弁天島の橋際に立つてゐた。ギイギイ艫の音を立てゝ一艘の小船が橋の下へ湖水の方から逃げ込んで来た。
「新居へ行く船はまだ出ないかね」と声を掛けると、
吉江 喬松
北から吹く風が冷たく湖上を亙つて来た。浜名湖の波は白く一様に頭を上げて海の方へ逆押しに押し寄せる。
四月の上旬で、空の雲はちぎれ/\に風に吹かれて四方の山へひらみ附いてゐる。明るい光が空を滑つて湖上に落ち、村櫛、白州、大崎の鼻が低く黒く真向ふに見えてゐる。
新居への渡船を待つて弁天島の橋際に立つてゐた。ギイギイ艫の音を立てゝ一艘の小船が橋の下へ湖水の方から逃げ込んで来た。
「新居へ行く船はまだ出ないかね」と声を掛けると、