中井 正一
雪
朝から、空は暗く、チラチラ窓のふちから、雪が散りこぼれて來た。
もうすでに六十日、これから何百日ゐるかわからない留置場で、私は、この雪をめづらしい外からまぎれ込んだ、自由の世界から入つて來てくれたものゝ樣な感じで今更のやうにみつめたのであつた。
一つ一つ、きれいな結晶をしてゐた。纖細をきはめたかぼそい線ではあつたが、一つ一つが數へられる美しさでからみ合つた、精密をきはめた機構をもつてゐた。
次から次にこぼれ落ちる雪の、どの一片一片もが、一つ一つ宮殿の一部だと云つていゝほどの複雜な構成をもつてゐた。