江見 水蔭
死剣と生縄
一
武士の魂。大小の二刀だけは腰に差して、手には何一つ持つ間もなく、草履突掛けるもそこそこに、磯貝竜次郎は裏庭へと立出た。
「如何ような事が有ろうとも、今日こそは思い切って出立致そう」
武者修行としても一種特別の願望を以て江戸を出たので有った。疾くに目的を達して今頃は江戸に帰り、喜ぶ恩師の顔を見て、一家相伝の極意秘伝を停滞なく受けていなければ成らぬのが、意外な支障に引掛って、三月余りを殆ど囚虜の身に均しく過ごしたのであった。
江見 水蔭
一
武士の魂。大小の二刀だけは腰に差して、手には何一つ持つ間もなく、草履突掛けるもそこそこに、磯貝竜次郎は裏庭へと立出た。
「如何ような事が有ろうとも、今日こそは思い切って出立致そう」
武者修行としても一種特別の願望を以て江戸を出たので有った。疾くに目的を達して今頃は江戸に帰り、喜ぶ恩師の顔を見て、一家相伝の極意秘伝を停滞なく受けていなければ成らぬのが、意外な支障に引掛って、三月余りを殆ど囚虜の身に均しく過ごしたのであった。