江見 水蔭
丹那山の怪
一
東海道は三島の宿。本陣世古六太夫の離れ座敷に、今宵の宿を定めたのは、定火消御役酒井内蔵助(五千石)の家臣、織部純之進という若武士で、それは酒井家の領地巡検使という役目を初めて承わり、飛地の伊豆は田方郡の諸村を見廻りの初旅というわけで、江戸からは若党一人と中間二人とを供に連れて来たのだが、箱根風越の伊豆相模の国境まで来ると、早くも領分諸村の庄屋、村役などが、大勢出迎えて、まるで殿様扱いにして了うのであった。
「出迎えの人数は?」と純之進は本陣に寛居ながら問うた。
「ええ、お出迎えにこれまでまいりましたのは、丹那、田代、軽井沢、畑、神益、浮橋、長崎、七ヶ村の者十一名にござりまする」と丹那の庄屋が一同を代表して答えた。