吉田 絃二郎
八月の星座
白い雲が岫を出る。白い国道が青田の中を一直線に南に走る。八月の太陽は耕作地を焦きつくすまでに燃えてゐる。幌馬車が倦怠い埃を立てゝ走る。父は葡萄畑に立つては幾度か馬車の喇叭に耳をそばだてる。東京の学校から帰る長男、県の中学から帰る次男と……田園の父にとつて八月は楽しい待望の季節である。
わたしは故郷の父が、わたしの帰省を待ちあぐんで母や妹たちに隠れては、日に幾度となく停車場に出かけて行つたといふ話を思ひ出す。
夏の白雲がわく時、葦の間の行々子が鳴く時わたしの故郷の父の墓を思ふ。母の墓を懐ふ。
八月の故郷は一家団欒の世界である。普段は学校に囚へられてゐる子供たちも解放されて故郷の旧巣に還つて来る。親と子と兄弟が十年前二十年前のなつかしい家庭の空気をとりもどす。