泉 鏡花

春昼後刻

二十四

この雨は間もなく霽れて、庭も山も青き天鵞絨に蝶花の刺繍ある霞を落した。何んの余波やら、庵にも、座にも、袖にも、菜種の薫が染みたのである。

出家は、さて日が出口から、裏山のその蛇の矢倉を案内しよう、と老実やかに勧めたけれども、この際、観音の御堂の背後へ通り越す心持はしなかったので、挨拶も後日を期して、散策子は、やがて庵を辞した。

差当り、出家の物語について、何んの思慮もなく、批評も出来ず、感想も陳べられなかったので、言われた事、話されただけを、不残鵜呑みにして、天窓から詰込んで、胸が膨れるまでになったから、独り静に歩行きながら、消化して胃の腑に落ちつけようと思ったから。

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