石井 研堂
元日の釣
上
元日に雨降りし例なしといふ諺は、今年も亦中りぬ。朝の内、淡雲天を蔽ひたりしが、九時ごろよりは、如何にも春らしき快晴、日は小斎の障子一杯に射して、眩しき程明るく、暖かさは丁度四五月ごろの陽気なり。
数人一緒に落合ひたりし年始客の、一人残らず帰り尽せるにぞ、今まで高笑ひや何かにて陽気なりし跡は、急に静かになりぬ。
机の前の座に着けば、常には、書損じの反故、用の済みし雑書など、山の如く積み重なりて、其の一方は崩れかゝり、満面塵に埋もれ在る小机も、今日だけは、特に小さつぱりなれば、我ながら嬉し。