石井 研堂

東京市騒擾中の釣

騒擾と違警罪

明治三十八年九月五日の、国民大会より、「警察焼打」といふ意外の結果を来せしかば、市内は俄に無警察の状態に陥り、これ見よといふ風に、態々袒ぎて大道を濶歩するもの、自慢げに跣足にて横行するもの、無提灯にて車を曳くものなど、違警罪者街上に充ち、転た寒心すべきこと多かりし。

されば、人心恟々として、安き心も無く、後日、釣船の宿にて聴く所によれば、騒擾の三日間ばかりは、釣に出づる者とては絶えて無く、全く休業同様なりしといふ。左もあるべし。然るに、此の騒々しきどさくさ紛れを利用して、平日殺生禁断の池に釣垂れて、霊地を汚し、一時の快を貪りし賤民の多かりしは、嘆かはしきの至りなりし。当時、漁史の見聞せし一二事を摘録して、後日の記念とせんか。

釣竿、奇禍を買はんとす

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