中原 中也

亡弟

ああ、もう、死んでしまはうか……

自分の正直さが、といふよりも歌ひたい欲望が、といふよりも酔つてゐたい性情が、強ければ強いだけ、〈頭を上げれば叩かれる〉此の世の中では、損を来たすこととなり、損も今では積り積つて、此の先生活のあてもなくなりさうになつてゐることを思ふと、死んでしまはうかと思ふより、ほかに仕方もないことであつた。

『どうせ死ぬのなら、僕は戦争に行つて死ぬのならよかつた』と、病床の中から母に語つたといふ、一昨年死んだ弟のことを思ひ出しては、いとほしくて、涙が流れるのであつた。――苦しい受験生活の後で、漸く入学が出来たかと思へば、その年の秋から床に就き、どやどやつと病状が進んで、もう百中九十九迄助からないことが事実になつたのだと思つた弟が、母にさう云つた時には恐らく、私なぞの未だ知らない真実があつたに相違ない。

弟は、母にだけさう云つたのだし、母も亦弟が死んでしまつてからさう云つたと語つてきかせた。聞いた時には一寸、何故生きてゐるうちに話して呉れなかつたのかと、怨めしい気持がしたが、俯いてゐる母をジツと見てゐると、生きてゐるうちには語りたくなかつたのだと分つた。

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