菊池 寛

奉行と人相学

大岡越前守は、江戸町奉行になってから一、二年経った頃、人相と云うことに興味を持ち始めた。

それは、月番のときは、大抵毎日のように、咎人の顔を見ているために、自然その人間の容貌とその人間の性格とを、比較して考えるようになったのである。

が、大抵の場合、人殺しや、強盗は凶悪な面構えをしているし、かたりやすりは、ずるそうな顔をしている。

が、折々愚直そのものと思われるような男がずぶとい悪人であったり、虫も殺さないように見える美人が、亭主を毒殺などしている。そうして見ると、愚直そのものと思われる顔にも、どこかに根ぶとい狡猾性がひそんでいなければならないし、虫も殺さないような美しさの中にも、人に面を背けさせるような残忍性が、ひそんでいなければならない筈である。

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