薄田 泣菫
茶話
帽子***1・5サンデー毎日
若い英文学者のN氏は、神戸のある高等専門学校で語学の教師をつとめてゐた。
その日は学期試験があつたので、朝九時から正午少し前まで、N氏は教室に詰切つてゐなければならなかつた。正午の休み時間に手早く食事ををはつたN氏は、日あたりのいい廊下で日なたぼつこをしながら、自分とさうさう年齢の違ひはない学生を相手に無駄口をきいてゐた。
そこへ小使が電話がかかつてゐると知らせて来た。出てみると近所の家からの取次で、分娩期が五六日後に近づいてゐた妻が、朝N氏が出て行つた後で急に虫がかぶつて来て、つい今しがた安産した。二人とも無事だから安心してほしいといふ知らせだつた。