久生 十蘭
平賀源内捕物帳
朱房銀※(「木+霸」、第3水準1-86-28)の匕首
源内先生は旅姿である。
旅支度と言っても、しゃらくな先生のことだから道中合羽に三度笠などという物々しいことにはならない。薄茶紬の道行に短い道中差、絹の股引に結付草履という、まるで摘草にでも行くような手軽ないでたち。茶筅の先を妙にへし折って、儒者ともつかず俳諧師ともつかぬ奇妙な髪。知らぬ人が見たら医者が失敗って夜逃をする途中だと思うかも知れない。
源内先生は高端折り。紺の絹パッチをニュッと二本突ン出し、笠は着ず、手拭を米屋かぶりにして、余り利口には見えないトホンとした顔で四辺の景色を眺めながらノソノソと歩いて行かれる。雨でも降ったらどうするつもりだろう、それが心配である。