小栗 虫太郎

「太平洋漏水孔」漂流記

竜宮から来た孤児

前作「天母峯」で活躍した折竹孫七の名を、読者諸君はお忘れではないと思う。

アメリカ自然科学博物館の名鳥獣採集者として、非番でも週金五百ドルはもらう至宝的存在だ。その彼が、稀獣矮麟を追い、麝牛をたずね、昼なおくらき大密林の海綿性湿土をふみ、あるいは酷寒水銀をくさらす極氷の高原をゆくうちに、知らず知らず踏破した秘境魔境のかずかず。その、わが折竹の大奇談の秘庫へ、いよいよこれから分け入ってゆくことになるのだ。

「おい、海を話せよ、君も、藻海ぐらいは往ったことがあるだろう」

青空文庫の作品カード