夢野 久作
呑仙士
筆者は酒が一滴も飲めないのに、友達は皆酒豪ばかりと言っていい。しかも現代を超越した呑仙士ばかりで、奇抜、痛快の形容を絶した逸話をノベツに提供して、筆者の神経衰弱を吹き飛ばしてくれる。
福岡の九州日報社という民政系の新聞社にいる頃、社員で酒を飲まないのは私一人であった。
私と一緒に地方版の編集をやっていた松石という男は、月末近くなると、茶褐色に変色したカンカン帽を持って、一巡する。一銭入れる者もあれば、十銭入れるものも在る。運よく原川社長(旧民政系代議士)が来合わせると五十銭ぐらい入れて貰ったりして感激の涙に咽んで帰って来る。
むろんその金で飲みに行くのだ。飲まないと頭が変テコになって仕事が続かないので、止むを得ない義金募集なのだそうだ。