佐藤 垢石

香熊

一

このほど、友人が私のところへやってきて、君は釣り人であるから、魚類はふんだんに食っているであろうが、まだ羆の肉は食ったことはあるまい。もし食ったことがないなら、近くご馳走しようではないかというのだ。

そうかそれは耳よりな話だ。馬の肉、牛の肉、豚の肉は世間の誰でも食っているから、これは日本人の常食だ。ところで僕は若いときからいかものが好きであって、永い年月の間に鹿、狸、狐、猿、鼠、猫、栗鼠、木鼬、羚羊、犬、鯨、海狸、熊、穴熊、猪、土竜など、内地の獣類は、いろいろ食べたことがある。だが、不遇にも羆の肉だけは、いまもって食ったことがない。

獰猛にして巨大、しかも狡猾にして人間の肉と、馬の肉を好むという羆は、一体どんな肉の味を持っているのだろう。早く、食べてみたいものだと友人に答えた。

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