佐藤 垢石
熊狩名人
一
先日、長野県下水内郡水内村森宮の原の雪野原で行なわれたラジオ映画社の「人食い熊」の野外撮影を見物に行ったとき、飯山線の森宮の原駅の旅館で、この地方きっての熊撃ちの名人に会った。そして僕は、この名人と一杯やりながら、吹雪の夜を語りあかした。
この名人は、同県上高井郡仁礼村字米子の住人で、上原武知君と呼び、本年未だ四十五歳の壮者である。この野外撮影は、北海道から持ち来った羆と朝鮮牛とを格闘させて両者の猛撃振りを実演させるのであるから、万一羆が柵外へ跳り出して人に飛び掛からぬとも限らない。
そこで映画会社では、この上原名人に出馬を乞い、万一の場合、一発のもとに羆を射殺して貰う手段を立てた。上原名人はこれを快諾して米子から森宮の原まで命と同じくらい大切な猛獣狩り用の鉄砲を肩にしてやってきたのである。