佐藤 垢石

食べもの

私は、この三月七日に、故郷の村へ移り住んだ。田舎へ移り住んだからといって、余分に米が買えるわけではなし、やたらに野菜が到来するわけではない。

近い親戚の人々や、家内の者と相談し、麦は今年の秋から、稲は来年の夏から、蒔いたり植えたりすることにして、まず手はじめに屋敷の一隅と屋敷に続く畑へ野菜を作ることにした。つまり、帰農のまねごとというのであろう。

しかしながら、野菜といっても愚かにならぬ。人間は、野菜なくして一日も生きていけないのだ。魚獣の肉はさることながら、この一両年、青物が甚だ好物になった。殊に家族の者共は菜っ葉大根を愛好し、香の物といえば、舌鼓打って目もないほどだ。

私の家も、先祖代々百姓である。私の代になってから、故郷を離れ文筆などというよからぬ業に親しんで、諸国巡歴に迷い出たが、中学時代までは鍬も握り、鎌も砥いだものである。だから、全く耕土を持たぬわけではなかった。

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