佐藤 垢石

香気の尊さ

釣り人が、獲物を家庭へ持ち帰って賑やかな団欒に接した時くらいうれしいことはないであろう。殊に、清澄な早瀬で釣った鮎には一層の愛着を感じる。メスのように小さい若鮎でも粗末にはできないのである。そこで釣った鮎の取り扱いとか始末とかについて書いてみたいと思う。

鮎は釣ったならば、水に浸けた魚籠に入れて生かしておき帰るときに上げるか、大きなものはそのまま殺して風通しのいい籠にいれておくがよろしいのである。ところが釣ると直ぐ腸を取り出して、籠に入れる人があるが、それは鮎の本質を棄ててしまうのと同じである。鮎が人に好まれるのは清淡の味もさることながら元来特有な高い香気にあるのであるから、香気と渋味を尊ぶ腸を棄てては鮎を理解しないも甚だしい。また頭と骨にも特別な香気がある。これは落ち鮎頃のかたくなったのでは口にできないが、七、八月のまだ柔らかい頃には、頭も骨も共に食うと本来の味と香気が舌に応えるのである。

籠に入れた鮎が腐る恐れがあるとすれば、鮎を出して二枚に割き薄く塩して、河原の石にはり付け日光に晒して干物とすれば珍味として賞玩するに足りる。これはまことに贅沢な食べ物で、人に贈っても甚だ喜ばれるであろう。それから腸も棄てぬ方がいい。

弁当箱か空壜へ入れて塩をかきまぜて持ち帰れば一週間にはウルカとなる。

青空文庫の作品カード