佐藤 垢石

酒徒漂泊

一

昨年の霜月のなかばごろ、私はひさしぶりに碓氷峠を越えて、信濃路の方へ旅したのである。山国の晩秋は、美しかった。

麻生豊、正木不如丘の二氏と共に、いま戸倉温泉の陸軍療養所に、からだの回春を待ちわびている三百人ばかりの傷病兵の慰問を志して、上野駅から朝の準急に乗った。峠のトンネルを抜けて、沓茫とした軽井沢の高原へ出ると、いままで汽車の窓から見た風物とは、衣物の表と裏のように、はっきりと彩を変えていた。二人は、莨を喫いながら何か賑やかに話しているけれど、私は窓硝子へ吸いつくばかりにして、めぐりゆくそとの景趣に眺めいったのである。

この秋は、陽気が遲れていた。いつもならば十一月のなかばがくると、上信国境の山々は、いくたびかの大霜にうたれ、木々の梢はうらぶれて、枯葉疎々として渓流のみぎわを訪れる、というのであるそうだが、いま見てきた妙義から角落の奇峭を飾る錦繍の色は、燃え立つほどに明るかった。横川宿あたりの桑園の葉も、緑に艶々しい。

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