佐藤 垢石

ザザ虫の佃煮

秋の蠅も、私には想い出の深い餌である。私の少年のころのある期間、父は忙しいので私の釣りの相談相手になれなかったことがある。私は、一人で竿から仕掛け、餌のことまで、才覚思案した。

上州へは、秋が殊のほか早く訪れるのが慣わしである。九月上旬になると、赤城と榛名の峡から遠く望む谷川岳や、茂倉岳の方に、黒い雲が立ちふさがって、冷たい風を麓の方へ送ってきた。日中は暑いけれど朝夕は、利根川の流れに風波が立って、もう寂しい秋がきたことを想わせる。

私は、小学校から帰ってくると、縁側を弱い羽で飛んでいる秋蠅を捕った。これを餌に持って利根川へ行った。辺地に近い石かげへ、短い竿で蠅をさした鈎を投げ込んだ。すぐ当たりがあった。小さいはやが、いくつも釣れた。黄色く色づいた稲の畔を走って、夕暮れの田んぼを家へ帰ってきた。そして、母に釣ったはやを焼いて貰って、夕飯のとき食べた。

それは、遠い昔の想い出である。

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