岸田 国士
職業(教訓劇)
ある新劇団の稽古場。
正面に黒の無地幕。部屋の中央に一脚のベンチ。ほかの家具類は悉く片隅に寄せてある。そこには、椅子卓子などの外に、若干の小道具――乳母車、バケツ、洋刀、パラソル、三脚、毛布などが纏めて置いてある。右手に柱時計。
数名の男女俳優(又は研究生)が、思ひ思ひの姿勢で雑談を交してゐる。
男優B 本を読むと、どんなもんでもみんな台詞にしたくなるね。女優B′ 役者になりたてはそんなもんよ。男優B ぢや、君もおつつけ、さうなる組だ。男優C 僕は、一昨日の晩、あれ見に行つたよ。女優C′ 十人座でせう。どこか新鮮なところがありやしない。男優B 新鮮でも未熟な果物は腹をこはす。女優C′ あたしは、新劇を見ると頭痛がするの。男優B さういふ症状もある。女優B′ (台詞の調子で)……「あたし、誰かと騒ぎたいな。新しい着物を着たせゐかも知れないわ。ねえ、なんかして遊びませうよ。あんた、村へ行かうておつしやつたわね。行きませうよ。行きたいわ、あたし……舟へ乗りませうね。草の上でお弁当をたべたり、森の中を歩いたり……。今夜は月がいゝかしら……。あら、変ね、あたしのあげた指環、はめてらつしやらないの……」男優D 「なくしちやつた」女優B′ 「だから、あたしが拾つたの」男優C 演し物はまあ、あれでいゝさ。たゞこつちで練習用に使つてるとも知らずに、のめのめと舞台へ掛けたもんだから、可哀さうに、あらが丸見えだ。女優D′ 稽古不足なのね。男優B あの稽古ならいくらやつてもおんなじさ。男優C 芝居をしてる本人たち、あれで面白いのかしら……。男優D 子供は玩具