斎藤 茂吉
愛国百人一首評釈
大宮の内まで聞ゆ網引すと網子ととのふる海人の呼び聲 長奧麻呂
この歌は長忌寸奧麻呂(傳記未詳)が文武天皇三年正月、難波宮に行幸あそばした時に供奉して、詔を奉じて詠んだものである。(大體さういふ學説になつてゐる)。
一首の意味は、魚の澤山にとれた網を今引かうとして、漁師が網を引く者ども(網子)を大勢集めて準備指導するその聲が、離宮の御殿の中まで、ようく聞えてまゐります。(まことに盛んでおめでたいことでございます、といふ意が言外にこもつてゐる)。
大漁があつて、漁師を中心に網引く群衆がさかんな聲をあげてゐるのを御聞きあそばされ、興深く思召たまうたときの詔であると拜察し奉るのである。字面は佳境讚美であるが、歌調の大きく堂々として居り、應詔歌の體を以て謹直眞率である。海國日本漁業發展を祝福し、同勢協和の聲としてもまた愛誦し得るものである。