久米 正雄
私の社交ダンス
確かジムバリストの演奏会が在つた日の事だつたと思ふ。午後四時頃、それが済んで、帝劇を出た時は、まだ白くぼやけたやうな日が、快い柔かな光で、お濠の松の上に懸つてゐた。
音楽の技巧的鑑賞には盲目だが、何となしに酔はされた感激から、急にまだ日の暮れぬ街路へ放たれた心持は、鳥渡持つて行きどころがない感じだつた。「さて、どうしようか。」と、僕たち二三人は行きどころに迷つてゐた。そして、此の興奮を抱いて、ムザ/\つまらない所へ行くのは、何だか惜しい気がするが、結局銀座でもぶら/\歩いて、時を消す外ないと思つてゐた。
と、後から、追ひ越して来た松山君が、
「どうです。そんなら僕らのダンス場へ行つてみませんか」と誘つて呉れた。