北条 民雄

戯画

彼女は非常に秀れた頭脳を持つてゐたのだと僕は思ふよ、これといふ理由はないのだけれど。僕はなんとなく、神秘的なものを感じてならないんだ。

その少女のことを語り始めようとする時、多田君はきつとかういふ前置をする習慣があつた。今年二十四の青年で、病気になつてから詩を書いてゐた。私は多田君とかなり親しい間柄で、その少女のことはもう幾度となく聴かされた。最初の一二回は相当面白く聴かれたが、やはり幾度も重なつて来ると、それから少女の様子を見に行つたんだらうなどと半畳を入れて彼を怒らせたりするやうになつた。すると彼は意外な程腹を立てて私をおろおろさせるのであつた。実際彼は何回くり返しても、更に新しい感激を自ら覚えるらしかつた。そのうち私もすつかりその物語を覚えてしまつたが、通俗小説にでもありさうな事柄なのであまり興味を有てなかつたが、多田君はさうでないと強く言ひ張つてきかなかつた。少女は名をみえと言つて、多田君はこの名前も大変気に入つてゐた。

それは、多田君がこの療養所に這入つて二度目のお盆を迎へた時から始まつた。彼の病型は斑紋で、豊かな頬に直径二寸くらゐのがまんまるく出てゐた。他にも手足に二三ヶ所あるさうだが、軽症といつてよかつた。多田君の眼は、私にこの上なく美しいと思はせた。非常によく澄んでゐて、きれのながい瞼にはふんわりと瞳を包む長い睫毛が生えてゐた。もつとも、かういふ世界にゐる私が死んだ魚のやうな白くただれた眼や、絶えず膿の溜つた眼ばかり見つけてゐるため、特別に美しく感ずるのかもしれなかつた。さてそのお盆の夜のことだが、多田君はどうしても死なうと決心したのだつた。勿論お盆になつたから

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