北条 民雄
重病室日誌
×月×日。
右腕の神経痛で七号病室へ入室した。空は陰気に曇つて今にも降り出しさうな夕暮である。室内は悪臭激しく、へどを吐きたくなる。送つて来てくれた舎の連中が帰つてしまふと、だんだんじつとしてゐるのが堪へられなくなる。入院した最初の日と全く同じ気持である。あの時、この入院第一日の印象は死ぬまで黒い核のやうに心の中に残るであらうと思つたのを思ひ出し、慄然とする。これは心の上にじゆッと焼きつけられた烙印のやうなものだ。
夜。腕がづきづきと疼き、どうしても眠られぬ。腕を抱へてじつと我慢する以外にはどうしやうもないのだ。このやうな時はうんうんと呻くのだけが僅かの楽しみである。呻いてゐる自分の声といふものは奇妙になつかしいものである。
×月×日。