岡本 かの子
取返し物語
前がき
いつぞやだいぶ前に、比叡の山登りして阪本へ下り、琵琶湖の岸を彼方此方見めぐるうち、両願寺と言ったか長等寺と言ったか、一つの寺に『源兵衛の髑髏』なるものがあって、説明者が殉教の因縁を語った。話そのものが既に戯曲的であったので劇にしたらと思い付いて、其後調べの序に気を付けていると、伝説として所々に出ている。此のたび機会があったのでまとめてみた。伝説には三井寺はもっと敵役になっているが、さまではと和げて置いた。
一たい歌舞伎劇の手法は、筋の運び方と台詞のリズムに、原理性の表現主義を持っていて、ものに依っては非常に便利なものである。
滅ぼしてしまうのは惜しい。此の戯曲には可なりそれを活用してみた。