伊丹 万作

人間山中貞雄

平安神宮の広場は暑かつた。紙の旗を一本ずつ持つた我々は脱帽してそこに整列していた。日光は照りつけ汗がワイシャツの下からにきにきと湧いた。前面の小高い拝殿の上には楽隊がいて、必要に応じて奏楽をした。注意して見ると、楽隊のメンバーにはアフレコ・ダビングでかねてなじみの顔ばかりである。

それから神官の行事があつた。つづいて君が代の斉唱、バンザイの三唱など型どおり行われたが、その間、出征軍人山中貞雄は不動の姿勢で颯爽――という字を張りこみたいところだが、そういう無理をするとこの一文がうそになる。どうみてもあれは颯爽というがらではない。鐘であつたら正に寂滅為楽と響きそうなかつこうで立つていた。

それからトラックやら自動車やらに分乗して「歓呼の声に送られて」と、○○の連隊の近所まで送つて行つたのはついきのうのことのような気がする。

入営から何日か経つて面会を許された日があつたので、女房のこしらえた千人針を持つて行つてみた。いろんな人が入りかわり立ちかわり面会に来るので、その下士官室は大変混雑していた。山中自身もすくなからず応接に忙殺されている形であつたので、長くはいずに帰つたが、この日の山中は元気がよかつた。

青空文庫の作品カード