岸田 国士
女人渇仰
舞台は黒幕の前、左手と右手にそれぞれ室内を暗示する簡単な装置。中央は街路。照明の転換によつて、この三つの部分が順々に利用される。
最初は、中央の街路上に二つの人影。
老人 ひとりつきりになつたね。少女 おぢいさんは、さつきから、なにしてるの?老人 なんにもしてない。歩いてゐるだけだ。お前が、そこに立つてるのとおなじさ。少女 あたしたちは、たゞ立つてるだけぢやないわ。誰かしらに用事があるんだわ。老人 なるほど、あんなに多勢ゐたお前の仲間は、みんな誰かしらとどこかへ行つてしまつた。お前はどうしていつまでもこゝにゐるんだい?少女 わかつてるぢやないの。誰もあたしと一緒に行かうつていはないからよ。うそだわ。ひとりゐたわ。でも、あたし、いやだつたの。こわいみたいな男だつたから。老人 むろん誰とでもいゝつてわけにはいくまい。みんな自分でこれと思ふのを探してゐるぢやないか。当り外れはそれやあるだらう。お前が撰んだ相手は、あひにく、お前ではといふんだな。少女 さういふもんよ。あたしはそんなに撰り好みはしない方だわ。日によるのよ。老人 お前はおれのやうな年寄りでもかまはないか。少女 いやだわ。おぢいさんはそんなつもりでゐるの。変つたおぢいさんね。いつまでもこのへんを往つたり来たりして、どうもをかしいと思つてたわ。どうしてもつと早く、好きなひとをみつけないの? それこそ話すだけ話してみたらいゝのに。おぢいちやんがいゝつていふひとだつてあるのよ。老人 さうかね、さういふのは四十ぐらゐのお婆さんだらう。少女 よく知つてるのね。四十六のひとがゐてよ。ついさつきまでゐたわ。でも、