宮城 道雄
声と人柄
或時、横須賀から東京に向う省線に逗子駅から乗ったことがあった。ところがその電車が非常に混んでいて、空いた座席が殆どなかった。丁度その時、どこかの地方の青年団の人々が乗っていたが、その中の一人が、私の乗り込んだのを見てか「おい、起て起て」と言ったら、腰かけていた人たちがみな起ちあがって、私たちに席を与えてくれた。
もしその場合に、私が目が見えていたら辞退するのであるが、私は盲人なので折角の親切を無にしては悪いと思ったので、腰かけさせてもらった。
私は初めその青年団の人たちが、つい近くへでも行くのかと思っていたら、やはり私たちと同様に東京へ行くらしいのである。そして、独り言のように「なあに、我々は起っていたっていいのだ」と言っていた。それからまた、自分たちが起っている苦痛をまぎらわすためか、元気よくお互に話し合っていた。そうかと思うと、何か手をまるめて、喇叭の真似を始めだした。
そして、色々の節を吹いていたが、それがなかなか上手にやっていた。一節吹いては興じ合って、みんなが元気に笑っていた。私はそれを面白く感じた。