ゴーゴリ ニコライ
ディカーニカ近郷夜話 後篇
さていよいよ二冊目の本を御覧に入れる、いや二冊目といふよりは寧ろ最後の本といつた方がよい! ありやうは、これも公にするのは全く不本意なことなんで。実際、もういい加減に身の程を知つてもいい頃ぢや。実を言へば、そろそろ村でも、わしのことを哂笑ひだしをつたのぢや。その言ひ草が、※(始め二重括弧、1-2-54)ほいほい、老爺さんもすつかり耄けてしまつたよ。あの高齢をからげて、こんな子供だましみたいな物を拵らへて御恐悦なんだからなあ!※(終わり二重括弧、1-2-55)と、かうぢや。まことに尤もな話で、もう疾くに楽隠居でもして落ちついてゐるのがほんたうぢやて。ひよつとすると、親愛なる読者諸君は、わしがこんなことを言つてわざと老人ぶつてゐるのだとお思ひかも知れんが、どうしてどうして、口に一本の歯も無くなつた今日、何を好んで老人ぶることがあらう! この頃では何か柔かいものにでもあたれば、まあ、どうにか食へもするが、ちよつと固いものにでもぶつかつたら、てんで噛み切ることも出来ませんのぢや。兎も角、またこの本を一冊お目にかける! が、どうか頭からこきおろしたりはしないで頂き度い! 別れ際に悪口を浴びせるのは宜しくないことぢや、殊に何時また会へるやら知る由もない相手にむかつては尚更のことぢや。さて、この本では、ひとりフォマ・グリゴーリエ※(濁点付き片仮名ヰ、1-7-83)ッチを除けば、殆んど諸君にとつて新顔の話し手ばかりの物語を御披露する次第ぢや。あの、よほどの才子や莫斯科人の大部分にもちよつと呑みこみにくいやうな気障な言葉づかひで話をした、例の豌豆いろの長袗を著た貴公子先生からはもう、すつかり音沙