若松 賤子

鼻で鱒を釣つた話(実事)

みなさん、魚はどういふものを食べたがるか、御承知ですか?。蚯蚓に団子………。さ様、それから生の肉類。エー、それに同じ魚で自分より少さいのを食べるものが多いといふことを知つておいでのお児も有ませう。ホラ鯨が鰯をおつかけるといふこともお聞なすつたでせう。それから鮫などの様な大きい魚になり升と、随分人間を呑み兼ねないのですよ。それはさうと、子供の鼻を食べさうにした魚のはなしをお聞になつたことが有升か。有升まいネ、わたくしは聞いたことがあるんですよ。現に其児をよく知つて居て、今でも生きて居る人ですから、其おはなしをしておあげ申ませう。

ある夏此児が両親と避暑に余処へ行つて居升たが、近処に美事な大きい湖水があるので、父は小舟を借りては其児の母と其児を載せ、麗らかなる日や、又月の光澄んだ夜に湖水の上に好い楽みをして居り升た。ある時父は用が出来て一寸家へ帰つた留守に母が武(此児の名)をつれて湖辺を散歩して居升と、武はいつも乗る小舟が岸に繋いで有るのを見て母にせがみ、一処にのつて、母は見覚えの漕手となり、武はチヨコント、舳の方へ座つてニコ/\して居り升た。武は此時、漸やく八才計りの子供のことですから、母は心配して、

コレ、武ちやん、舟の椽へ寄りかゝるのでは有ませんよ、音なしくシヤントして入つしやい。

武は畏こまりて、

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