折口 信夫
短歌様式の発生に絡んだある疑念
今の世の学者が、あらゆる現象を、単純から複雑に展開してゆくものときめてかゝる考へ方は、多くの場合まちがつた結論に安住することになつてゐる。文学の場合もさうであつた。
沢村専太郎氏が、ふた昔も前に発表せられた、短歌様式の論(明治四十年頃の新小説)は、それまでの歌論の、ゆきつく処まで、ひき上してゐる。其後、友人武田祐吉も論じ、私も聊か述べたことがある。
併、考へれば、私までが、簡単な論理に低回してゐたのであつた。
あしびきの山より出づる月まつと、人には言ひて妹待つ吾を(万葉巻十二)